胚盤胞の膜の外側にある、生殖に問題ない細胞をアメリカに送って遺伝子レベルで検査し、問題のない凍結胚盤胞だけを移植するという治療を行っている病院が、関西を中心として東京圏にも存在します。
最近、そこに行けば良い卵が採れて、出産できると思い込んでいる患者さんが増えているようです。
当院の患者さんにもそんな話を頼りに、どうしても行ってみたいのだけど、どうなのでしょうか?と相談される機会が増えています。
倫理的な問題は医療界に任せるとして、アメリカでは一般的に行われているこの検査法と超高刺激による採卵法の組みわせ、そしてそこにプラスされる不育症検査と、ヘパリン注射、ビタミン療法、DHEAの使用がメインのこれらの生殖医療には、当然ながら対象になるであろう人と、実はあまり効果が期待できない方の両方がいらっしゃると思います。
ただ、この治療の対象になるのか、ならないのか?を、ご自分できちんと調べて判断できる方があまりいらっしゃらないとも感じています。日本人は流行り物にすぐ食いつく特徴があるようです。
例えばNHKの試してガッテンや、昔なら、みのもんたさんがやっていた健康系のテレビ番組で、この健康法がいい!治療法が新しい!これを食べると健康になれると言われると、その日のうちにスーパーの売り場は、夕食の買い物であふれた”おばちゃま達”によって、我先にと話題の食材が売り切れていき、姿を消してしまうということが繰り返されてきました。
つまり遺伝子検査をするから、良い質の卵が採れるようになるわけではなく、遺伝子異常を見つける事で、流産や着床しないといった無駄な移植をしないために検査するのです。
あくまでも質の良い卵を作っているのは、あなたの卵巣の力です。卵巣の機能が若い時のように少しでもアップして、5ヶ月間でおこなわれる減数分裂の転写にミスが減らない限り、良い卵は生まれにくく、着床しなかったり、流産になってしまうのです。そこを焦って混同しないようにお気をつけくださいね。
最新、流行りの検査、治療法だから、誰にでも良いわけではなく、適応となるかどうかを良く知る必要があります。では、胚盤胞の遺伝子検査をする方法が効果的な方とは、どんな方でしょうか?私たちがよくお話しするのは
1、 卵の質が良いものを、まだ持っていて、高刺激の誘発剤の使用でも採卵ができ、培養すると胚盤胞で凍結できる。
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胚盤胞まで培養できないと細胞を検査することができません。分割胚での移植しかできない場合、検査せずに移植になりますので、検査が希望でこの病院を選んだ方にとっては、意味がなくなってしまいます。
2、 移植をすると着床し、妊娠反応が出て、8〜9週くらいまでは成長するが、この辺りから成長が止まり、流産を繰り返す。
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流産を繰り返すことは、患者さんの体と心への負担が大きいので、複数個の胚盤胞が採卵できたら検査に送り、遺伝子レベルで異常が見られないものだけ移植をすることが、治療の時間を短縮し、金銭的な負担を軽減することに役立ちます。
まとめると、卵の質が良く、顕微授精をすれば妊娠するけれど9週目ほどで流産を繰り返してしまう方。こんな患者さんには遺伝子検査を行うことで無駄な流産を減らすことが期待できそうです。
ただ、実際にアメリカで生殖医療を受けた方は、この検査法で遺伝子の異常なしと診断された凍結胚を移植されたのですが、5個の凍結胚のうち1回目の移植では着床の反応さえも出ませんでした。
つまり、遺伝子異常でとはいえないけれど、仮に組織の個体差、変質、変形などの累積等によって、出産はおろか、着床さえもしないということが、相当数起こるということになります。当時のアメリカの病院では55%の成功率と言われたそうです。