鍼灸は古いけど、不妊鍼灸は現代のハリなのです。

 

不妊鍼灸をうたう鍼灸院も増えましたね。そんなこともあって患者さんは子宝に恵まれるようにと、体外受精などの不妊治療を病院で受けながら、鍼灸治療を並行しておこなっている患者さんが増えています。

さて、ここでよく聞くのが、鍼灸ってどのくらい前からあるのですか?

という質問です。現在の鍼灸の元は2000年前の中国で、日本の鍼灸はそれを日本人に合うよう室町時代ごろから改良されて来たものなのですよ。と言うと、ここで大体言われるのが、

そんなに古くからあるんですね。体を整えてハリやお灸で血流をよくすると子宝にいいんですね。卵巣や子宮を活性化するツボも昔からあるんですか?

特別なツボを使うと魔法のように子宮、卵巣が元気になるというわけではないんですよ。しかも不妊を治す鍼法(ハリ灸の治療法)そのものも、実際にこれ!というやり方自体が存在しなかったんですよ。と言うと、患者さんは…はっ?っとなります。

それはそうですよね。不妊を治療するために鍼灸院に来ているのに、不妊を治す鍼灸法は存在してこなかった。と言われているのですから。今やってもらっている不妊鍼灸法は、2000年前からあったんと、ちゃうんかい!?となりますよね。 はい。

しかし、はっきり不妊の鍼灸術と言えるような具体的な方法は、2000年前にはなかったのです。

つまり最近巷で不妊鍼灸と謳われている鍼灸法は現代のオリジナルの技術で、それぞれの治療者が改良している手技なのです。

しかも病院による不妊治療では誘発剤やらオペやら採卵、受精、培養、移植と様々な現代生殖医療が施されることを、鍼灸は補完してゆく役割が求められています。

では何故、2000年以前には不妊の鍼灸はなかったのでしょうか?

それはまず、2000年前には不妊症という概念がないのですから。

女性の初婚年齢が、14歳〜20歳ではないでしょうか?女性の人生で一番大切なことは、嫁に入ってその家のしきたりを守り、子供をたくさんもうけること。それ以外の個人とか自由なんて考えは、どこにもなかったのです。

その若さで結婚して、子供ができる女性は、避妊もせずに子供を生み増やし続けるのが、当時の女性の第一の仕事であり人生でした。若くても、子供を産むことができない女性は里に返されてしまうか、大きな家や権力者、商人なら、二号さんがやって来て実権を取られてしまうでしょう。そこには、とても気の毒な状況に追いやられてしまう人生もあったのです。

二十歳で健康なのに不妊治療が必要となると、現代でも難易度が高いのです。当時では、手の施しようがなかったでしょう。

鍼灸法としては、女性疾患や、冷え、子宝(疾患というよりは、純粋に子供を得るための)、安産、逆子などはありますが、子授けを疾患として捉えに治療する需要は限られていたでしょう。

子供を産めない女性への対応が、治療という形をとっていたのか?あるいは、そういう女性は、家中心の社会構成の表舞台からは、だんだんと忘れ去られえていくような境遇にあったのではないでしょうか。

 

20歳で子供がどうしてもできないとなると、卵巣、卵管、子宮に外科的なオペが求められる疾患がある場合や、男性側の精巣や、性交の問題、あるいは女性側の卵巣、卵胞の質、AMH等の問題が考えられます。
そのような問題に対して、当時の鍼灸だけで治療を完結できるだけの方法は確立できなかったのではないでしょうか。それゆえに技術的な指南書上の具体的な方法の記載は見当たらないのではないでしょうか。

不妊鍼灸の効果を高めるために、現代の私たちも、毎日切磋琢磨しながら改良を重ねています。良い卵を作る難易度の高い患者さんを多く診ることで、多くの新しい施術のヒントを得ながら、もっと多くの方が子宝に恵まれますように、努力していきたいですね。